2015年04月21日

映画『セッション』に関して(ネタバレ)

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もう、いろんな人が様々な批評・感想を述べているので(しかも凄い熱量で・・・)正直、「僕がこの映画について書かなくても、みんな観に行くだろ・・・」という気もするんですけどね。ちなみに最初に言いますが僕は『セッション』は映画としては好きです。ラストの約9分に関しても個人的には相当楽しめましたし。思わず声に出して「行っけ!やっちまえ!!」って言いましたし(笑)ただ、僕が言いたいのが「音楽映画」と言われているのがどうも腑に落ちないなと思っていて。

『セッション』のあらすじ
名門音楽大学に入学したネイマン(マイルズ・テラー)はフレッチャー(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。ここで成功すれば偉大な音楽家になるという野心は叶ったも同然。だが、待ち受けていたのは、天才を生み出すことに取りつかれたフレッチャーの常人には理解できない〈完璧〉を求める狂気のレッスンだった。浴びせられる罵声、仕掛けられる罠…。ネイマンの精神はじりじりと追い詰められていく。恋人、家族、人生さえも投げ打ち、フレッチャーが目指す極みへと這い上がろうともがくネイマン。しかし…。(『セッション』HPより引用)



さて、この映画で僕が言いたい事は以下の3点
1 約9分間のカタルシスは音楽映画としてのカタルシスなのか?
2 そもそもフレッチャーは悪役だったのか?
3 ラストカットで足りないもの


この3点について少しお話をしたいと思います。あと、一応今から書くことはこの映画を見たと言う事を前提に書きますのであしからず。


1 約9分間のカタルシスは音楽映画としてのカタルシスなのか?
まず、この映画の最大の見どころラスト9分間について最初に話をします。ラスト9分を見た感想で「楽しかった」「癒やされた」という反応は見かけません。一番多い反応は「燃えた」という感想でした。そして僕自身もこのラスト9分には燃えました。で、ここで考えてほしいのですが音楽を聴いて「燃える」という言葉はあまり使わないような気がします。よく使う場面はプロレスやボクシングなどのいわゆる“格闘技”をみてこの言葉を使うような気がします。すなわち、このラスト9分間は“音の格闘技”というのがとてもしっくりくるのかなと僕は思います。

そう、僕はこの終盤で音楽映画の要素よりも格闘映画の要素をものすごく感じたわけです。終盤、フレッチャーは期待で胸いっぱいのネイマンを音楽でズタズタに傷つけ、一度はステージを降りますが負けられないと奮起をして“あの行動”をとります。それは音を武器として悪役であるフレッチャーを倒す最後の手段でもあると同時に、ある種の暴走でもあります。ネイマンがフレッチャーに対する最後の反撃は『ロッキー』で14ラウンドKO寸前のなか不屈の精神で立ち上がりアポロに立ち向かうロッキーが投影するようなそんな気がしました。

でも、音楽は音を“楽しむ”と読みます。つまり、周り人を楽しませる、HAPPYにしてくれる物であっても、人を陥れたり、戦うためにあるわけではないと考えます。だから、この映画におけるフレッチャーの裏切り、そしてラストのニーマンの反撃という流れが出てきて最終的に和解するという流れは二人だけの物語であり、他の演奏者やこの会場にいた観客が音楽の力で幸せであったのかと考えると必ずしもYESとは僕はならないと思います。

そして二人が音楽を武器として格闘している事が描かれている以上、この二人にどんな結末があろうと僕はこの映画は「音楽映画」としてはどうだろうと思いました。『リンダ リンダ リンダ』『スインング・ガールズ』『スクール・オブ・ロック』この音楽映画には音楽で戦うではなく、しっかりと楽しむことが描かれていますし、周りの人たちは幸せを共有していたように感じます。

では、どうしてこの2人は音楽という物を武器にしたのでしょうか。そもそも、僕はこの映画で一つ納得できない部分がありましす。それが2である「そもそもフレッチャーは悪役だったのか?」ということです。

2 そもそもフレッチャーは悪役だったのか?
この映画のもたらすもう一つの側面としてフレッチャーのもたらす圧倒的なパワハラシーンが強烈な印象を残します。でも、こんな指導者は珍しくないんです。まず朝早くから深夜まで練習するなんて日常茶飯事ですし、流石にあんなに椅子を投げつけたりする人はいなかったのですが、指揮棒投げる人もいたし、マウスピースで頭叩いたりする指導者と噂では聞きます。

こんな事を書く私も吹奏楽をやっていた時(ちなみに中高大と9年くらいトランペットをやってました。)には指導者ではありませんが、ミスするようなもんなら、先輩に人格否定されるような言葉をバンバン浴びせられるし、バチはとぶは殴られて全身痣だらけになるまで指導されたりしましたが(笑)そして僕以外にも、こんな経験ってわりと沢山ある事だと思うんですよ。昨今は指導方法の効率化や体罰等の問題が厳しくなり、このような事は減っているとは思いたいのですが。。。

だから最初、指導者としてのJKシモンズを見ていると、個人的には“とても熱血な指導者”だなと思ったんですよ。確かに指導方法には凄く難はあるけど、それは生徒が今後音楽というジャンルで勝ち進むために技術と精神をイジメ抜いて鍛える、そんなやり方だと思ったんです。鬱で亡くなったのを交通事故で亡くなったと言ったのも自分のミスを隠したいわけではなく、自分の教え子で素晴らしい子がいて生徒たちに亡くなった事を言いたかった、鬱と言う事をいうと学生たちに音楽へネガティブな印象を受けるから交通事故と言ったと思いました。そもそも、プロになってから自殺したのであれば、それは指導者の責任ではなく“プロとしての重圧に負けた”って事ではないのかなと思います。

だから、ラストのあの悪漢に変化したフレッチャーを見て、自分自身が相当傷がつきました。だって、どんなことがあったにせよ教え子は普通可愛いもの。それを演奏会という場であんな罠を仕掛けるような人間は、音楽やる人間ではないと思いました。では、何でここまでフレッチャーが悪役になったのか。ここで考えてほしいのがこの映画は監督の実体験にまつわるものだと言う事です。

この映画は監督自身がドラムをやっておりプロを目指そうと努力していたが挫折してその経験がもととなったのがこの映画であった。そして、実際このフレッチャーみたいな指導者にコーチを受けていたとのこと。以前監督はインタビューにてこんなことを答えています。


Q:チャゼル監督はフレッチャーの暴虐無人ぶりをどのように思いますか?

チャゼル:僕は以前彼のような先生に習ったことがあって、そのお陰で僕の演奏は大分ましになった。でも人間的に彼のしたことを許すことはできない。この映画では、フレッチャーのやることなすことをできるだけ極悪非道で許しがたいものにしたかったんだ。実際、暴力的な指導というのが偉大な音楽家をつくるというジャズ業界の雰囲気を否定することはできないからね。

http://ciatr.jp/topics/21674


つまり、この映画でのフレッチャーは監督自身が昔教えられていた指導者の姿であり、僕が推測するに中盤までのフレッチャーは監督の経験に基づく者、終盤のコンサートでの彼は監督が経験した憎悪を集積した悪魔として存在ではないのかなと感じます。さらに言えばこのインタビューを見る限り、彼は音楽という物は楽しいものではなく、トラウマだと思っている様にも感じられました。だから、音楽映画として形式ではなく、格闘映画の形式にのっとってラスト9分間は悪魔を倒し、浄化させ最後には信頼する2人の関係を描いているのかなと思う訳で。しかし、監督自身も音楽をこのような描き方にしている事は正しい事ではないと気が付いているように感じます。この映画、ラストカットで本来あってもいいはずのものが無いんです。それが拍手です。

3 ラストカットで足りないもの
普通、演奏終わりに観客が拍手をする、スタンディングオベーションをするシーンがあってもいいように感じます。もし拍手があれば周りの観客が音楽で幸せになった姿が描かれて「音楽映画」になったのだと思いますが、この映画はキャラバンが終了すると同時に映画も終了します。エンディングについてはチャゼル監督はこのように語っています。


僕がイメージしていたエンディングと、実際スクリーンで映されたエンディングが違うもののように感じたんだ。多分思い描いていた時点では、まだ音楽そのものが影響してこなかったから。最後のシーンを見た人はその結末に対してちょっと嫌な気持ちになるかもしれない。でも同時に混乱させるような疑問も残すことができたらいいなと願っている。
http://ciatr.jp/topics/21674


つまり、このような議論が起こることはあらかじめ織り込み済みだったのだと思います。音楽を武器として使っている事、そしてそういうのは音楽として正しくあるべき姿ではない事、そしてその描き方に関しては観客に判断をゆだねるという意味で拍手(肯定)を無くしたのではないでしょうか。

長々と語りましたが、これだけ議論が白熱するという事はそれだけ面白いと言う事でありますし、個人的には『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』よりも面白いとは思いましたよ(笑)まだ見てない人は是非、自分の目で確かめていただきたいなと思います。
posted by ゴリさん at 03:03| Comment(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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